時々、看護の雑誌などで訪問看護事業所に新卒で就職してから経験を積んだというような特集を見ることがあります。
まず、大前提として、それが普通ではないからそのような特集が組まれるのですが、そのようなものの影響なのか、新卒で訪問看護に就職するのはどうですか?という質問をされる方がいます。
私の結論から言うと「新卒で訪問看護に就職するメリットがない」ということになります。
急いで訪問看護に就職しなくても、長い看護人生、しっかり病院で経験を積んで訪問看護に行けば良いです。
その方が訪問看護で困らないですし、もし訪問看護以外に転職する際にも困らないです。
訪問看護は看護の中でも特殊です。まず考え方が違います。
それに関しては以前の記事で書いていますので興味があれば読んでみてください。
やはり今後長く看護をしていくのであれば技術はもちろんですが、考え方についても基本をしっかり学んでおく方が良いと考えます。
新卒で訪問看護に就職をしない方が良い理由について何点か上げてみます。
- 経験できる疾患が少ないため技術や知識がつきにくい
- リスク管理や看護計画に対する考え方が在宅は特殊
- 訪問時は1人で対応しないといけないこともあるのである程度の経験がある方が落ち着いて対応できる
- 対人スキルにおいてもある程度の経験を積んでおく方が良い
- 利用者や家族もある程度の経験を持った看護師を望んでいる
この辺りが新卒で就職をして困ることなのではないでしょうか。
それではそれぞれについて具体的に説明をしていきます。
経験できる疾患が少ない。技術や知識がつきにくい

在宅で生活をするということは、特殊な例を除いて、基本的にはある程度落ちついている状態になります。
看護をする上で急性期から慢性期へどのように移行していくのかという過程を知ることはとても大切です。
いきなり、在宅の看護をするということはその急性期の部分が抜けている状態になります。
在宅での看護は慢性期のため、疾患特有の症状というのを看ることはほとんどできません。なので訪問看護でその疾患があっても、その疾患を看ているのか、それとも他の疾患を看ているのか判断がつきにくこともよくあります。
また、さらに高齢者になると疾患特有の症状が出にくいこともあります。
このようなことから在宅では、その疾患特有の観察や看護はできないことが多いです。
つまり、その疾患に対しての知識がつきにくい、もしくは回り道になると考えます。
また処置などについても在宅は特殊です。
まず、物がないこともあります。そのため、他の物で代用することもあるのですが、これは元々の処置やケアを知っているからこその応用になります。いきなり応用から行うことはよくないです。
応用しか知らないと基本的なことができないということにもなりかねません。また他の方法での応用が必要になったときにも他の応用で対応することも困難になります。
たまに、応用だけ覚えておけば良いと言われる方もいますが、これは基本的な考え方としては間違っています。
基本を知って、応用をする。
その流れを在宅で経験するのは難しいです。病院などで経験する何倍も時間がかかります。
基本的な技術や知識はやはり病院で経験する方が近道ですし、確実です。
在宅ではリスク管理や看護計画なども特殊

先ほどは知識や技術について説明しましたが、看護を行う上で必要なリスク管理や看護計画も在宅は特殊です。
そもそも、病院の看護計画は治療を行うための計画になりますが、在宅での看護計画は生活を安定して送るための看護計画になります。
中には看護計画には違いがないと言われる方がいますが、冷静に考えて、病院の看護計画を在宅で実施できるわけがありません。その時点で計画が同じということは無理があります。
リスク管理についても同様です。
病院と在宅のリスクは内容が違います。
そして、対策の質も違うものになります。
病院では常にスタッフがある程度の人数います。その状況であれば、お願いすれば、誰かが対応してくれることでも、在宅ではそうはいきません。
事業所から家までの移動時間があるので、準備の段階から違うのです。
そして、在宅の場合は「それは誰のリスクなの?」ってこともよくあります。
看護がしっかり対策をしていても、利用者が勝手に間違えたりします。
しかし、次に同じようなことを起こさないために、そのような状況でもリスク対策が必要になります。
リスクに対する考え方は同じではないかと思われるかもしれませんが、どんなにこちらがその対策をしたくても、利用者やその家族がそれを拒否すればできません。
拒否されない対策をできる範囲で考えていかないといけないことになります。
病院の看護について、いろいろ言われる看護師もいますが、病院という環境は看護や医療を提供する上では恵まれた環境です。
こちらが提供する看護に対して不満があっても言わない患者がほとんどですし、言ったとしても病院の方針を貫くこともできる。
対して、在宅は利用者のお宅に伺って看護するわけですから、どんなに良いことでも利用者がダメと言えばダメです。
このような在宅の環境では基本的なリスク管理というよりは在宅でのリスク管理になりがちです。
リスク管理を学ぶにしても、やはり病院の方が良いです。
訪問時は1人で対応。ある程度の経験がある方が落ち着いて対応できる

上の経験の話と繋がるところがあるのですが、訪問は慣れてくれば、基本的には1人で訪問をするようになります。
訪問先での対応はいろいろですが、生活の中での看護になりますので、思いもよらないトラブルに遭遇することもあります。
そのような時の対応はやはり経験値がものを言います。
経験がない看護師にいくら電話で対応方法を伝えたとしても対応は困難です。
そうなると誰かが駆けつけるか、とりあえず、その看護師ができる対応をするようになります。
訪問先が遠かったり、他に対応できる看護師がいなかったりして、対応が遅くなると利用者にも迷惑がかかります。その状況の判断がある程度正確にできなければ、生命に関わることもあります。
やはりある程度の経験は必要になりますが、経験を積むのは病院の方が早いです。
対応も観察も知識も病院の方が身につきやすいです。
対人スキルにおいてもある程度の経験を積んでおく方が良い

相手のお宅へ訪問して看護をするということは、家族などの対応も必要になります。また利用者も自分の家ですので、病院の時とは対応が違います。
そのようなときにどのような対応ができますか。
私はある程度の年齢になり、社会経験を積むことにより得られる経験だと思っています。
それに看護師としての対応をプラスしていかないといけないときもあります。
それは病院で患者や家族に退院指導などをしていれば身についてきます。
在宅でも経験を積んで来れば、身についてきますが、わざわざ、その経験がない状況で在宅看護をしなくても良いです。
若いうちは失敗をたくさんする方が良い考えています。
失敗をしたときに周りでカバーしてくれる先輩がいることは本当に心強いです。
そのような環境で失敗をしっかりしてからでも、訪問看護へ行くのは遅くないです。
利用者や家族もある程度の経験を持った看護師を望んでいる

家族にとって、在宅で病人を看るということには不安が伴います。
利用者や家族の中には担当の看護師を選ぶ方も多いです。
その中で私が感じていることとしては、若い、もしくは若く見える看護師に対しては、不安を訴える利用者や家族が多いように感じます。
話を聞いても特にその看護師との間に何か不安になる出来事があったということではなく、なんとなく不安ということです。
その後も話を聞いていると若いと経験が不足しているように感じるので不安ということでした。
その場合は話あいを行いますが、どうしても気になるようであれば、無理に継続してもお互いにやりづらいだけですので担当を交代するようになります。
担当を決める際には知識も経験も問題ない看護師を選んでいます。
人は見た目が9割という本もありますが、まさに看護師としては、見た目で損をしているケースだと思います。
ちなみにこのような状況は病院でもあります。
私も若いころに患者に「あんたでは不安だからベテランに代わってもらって」と言われたことがあります。
病院であれば、ベテラン看護師と一緒に行うことができました。
在宅でも一緒にできないことはありませんが、事業所によっては人数の問題などによりその対応は難しいこともあるのではないでしょうか。
まとめ

今回、「新卒で訪問看護への就職はきつい」というテーマについて説明をしました。
訪問看護は素晴らしい仕事だと思っています。
看護師を継続するのであれば、いつかは経験してほしい看護です。
しかし、わざわざ新卒で訪問看護に行かなくても良いです。
病院で看護を経験して、ある程度自信をつけて、在宅看護の世界に入れば良いです。
もし訪問看護に興味があるのであれば、在宅での看護も視野に入れた内科などで勤務するのが良いです。あとは最近は精神科の訪問看護も増えていますので精神科での経験も訪問看護で活躍します。
最後にもう一度言いますが、雑誌などで新卒から訪問看護へ就職するのは特殊なケースです。
もし、どうしても新卒で訪問看護に就職するのであれば、大きな訪問看護事業所を選ぶことと、その後、もし訪問看護が嫌になって、一般病棟などへ転職した際は苦労することを意識して就職した方が良いです。
私としては、病院で看護を経験してから訪問看護が絶対におすすめです。
それでは今回もありがとうございました。